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固定資産の減損会計について [金井 千尋]

 昨今の、企業を取り巻く環境の急速な変化に伴い、企業の実態を適切かつ適時に公表するディスクロージャー制度もまた、大きな転換を求められました。連結財務諸表、キャッシュフロー計算書、税効果会計、金融商品会計および外貨換算会計など、会計基準の整備がひととおり行なわれたところで、今度は、固定資産の会計処理について、幅広い観点から検討されることとなりました。
 わが国の現行の会計では、固定資産の評価には、事業用資産か投資用資産かを問わず、取得原価基準が採用されてきました。臨時償却という、価値の下落を帳簿価額に反映させるという考え方も、組み込まれてはいますが、帳簿価額が価値を過大に表示したまま、将来に損失を繰り延べるおそれがあります。
 不動産の価格や収益性が著しく低下している昨今の状況では、財務諸表の社会的信頼を確保する上で、固定資産の評価の問題を見直すことが強く求められています。
 今年の7月に、企業会計審議会が「固定資産の会計処理に関する審議の経過報告」を公表し、各界からの意見を求めたこともあり、良い機会ですので、減損会計の概念や今後とられるであろう方向性について、考察してみたいと思います。

<固定資産の減損会計とは>
 減損会計とはどのようなことを言うのでしょう。よく、企業が保有している固定資産の時価が下落したので、その含み損を表面に出さなければならないから導入されるのだと言われますが、そうではありません。投資額の回収可能性に着目し、時価が下落しても当該固定資産を使って十分なキャッシュフローを生み出せるのであれば、減損処理する必要は無いのです。
 固定資産の減損処理(即ち減損会計)とは、収益性の低下により投資額を回収する見込みがなくなった資産の帳簿価額を、一定の条件のもとで回収可能性を反映させるように減額する会計処理をいいます。これは、帳簿価額の切り上げを認めずに切り下げだけを求める点で、いわゆる時価評価とは異質です。将来に損失を繰り越さないための、臨時的な減額と考える事が妥当です。
 「経過報告」では、まず減損の蓋然性を識別する基準を設け、減損の存在が相当程度に確実な場合に限って減損損失を認識し、帳簿価額を減額することが適当としています。
 具体的には、まず、減損の兆候をとらえる。その兆候の例として、資産の市場価格の著しい下落、等があげられています。
 そして、減損の兆候が認められた資産または資産グループについて、調査すなわち、将来にわたって得られるキャッシュフローの見積もりが行なわれることになります。この見積もられた将来キャッシュフローの総額(割引前)が、帳簿価額を下回っている場合には、減損損失を「認識」します。
 次は、減損損失の「測定」です。「経過報告」は、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失は当期の費用として特別損失処理することが適当としています。この場合の回収可能額は、正味売却価額と使用価値のうち、いずれか高い方の金額を指します。
 正味売却価額とは、時価(通常市場価格をいいます)から処分費用を差し引いたものです。一方、使用価値というのは新しい概念ですが、資産または資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生じると見積もられる将来キャッシュフローの現在価値をいいます。経済的合理性を追求する企業は、そのうちの高い方の金額で投資額を回収するはずであるから、高い方を回収可能価額とするわけです。
 つまり、固定資産の時価が著しく下落したから即、帳簿価額を減額するのではなく、それを減損の兆候としてとらえます。そして、兆候のあるものに対して回収可能価額を現実に計算し、その金額が帳簿価額より低い場合には、その差額を減損処理する、ということです。

<減価償却との関係>
 減価償却との関係は、どう考えれば良いでしょうか。
 減価償却は、一定のルールに従って規則的に原価を配分していく方法ですが、資産の収益性にリンクして償却することは、要求されていません。
 減損会計は、将来の回収可能性を見直して帳簿価額を修正する点で、原価配分とは観点が異なるともいわれています。
 概念的には、減価償却の修正と減損とは本質が違うという前提で、どちらもその期の特別損失として処理することは同じであるから、当面は厳密には区分しないというのが日本の考え方のようです。

<土地の問題>
 減損の問題で企業会計に最も大きな影響を与えるのは、土地の評価の問題であると思います。
 将来のキャッシュフローを見積もる上で、土地の使用期間をどう扱うかは、今後検討するということです。建物とセットで使用される場合、建物の使用年数を採用して、キャッシュフローに土地の処 分価額をおりこむ、といったことも考えられます。

<投資不動産の扱い>
 投資不動産については、会計処理は取得原価主義を採用、時価の注記をするか否かは、今後検討されるということです。「経過報告」では、時価の変動をそのまま損益に参入せず、他の有形固定資産と同様に取得原価基準による会計処理を行い、必要があれば減損処理を行うことが妥当ではないかと言っています。
 国際会計基準では、企業が自ら使用するものおよび棚卸資産を除いた、賃貸収益または資本増価を目的として保有する不動産を投資不動産としています。そして、時価評価または取得原価主義との選択適用を認め、後者を採用した場合は、時価による注記を求めています。
 しかし、日本では、欧米のように自らが使い続けるものは固定資産、金融資産と同じように売買、換金を行うために保有するものは投資用資産、と、明確に区分できない社会的背景があります。外形的には投資不動産と見られるものでも、事実上、事業投資と考えられる場合もあるため、先に述べた会計処理が採用されるとのことです。

<税法との関わり>
 多くの会社は、会計実務において、税法上の耐用年数で固定資産の減価償却を行っていますので、「経過報告」における、経済的に見込まれる残存試用期間との差異が、当然生じます。
 また、土地の減損処理が、税務上認容されるかというと、難しいと思われます。税効果会計の適用方法が、今後検討されることでしょう。

(次ページへつづく)

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